『グノーシア ザ・ライブプレイングシアター』はなぜ全編アドリブの人狼会議に挑むのか

最終更新日

Comments: 0

2026年8月21日、東京・浅草の飛行船シアター(スタァライト劇場)で、ひとつの舞台がSNS上で大きな話題になった。

タイトルは『グノーシア ザ・ライブプレイングシアター』。

SF人狼アドベンチャーゲーム(会話のやり取りから嘘をついている人物を推理する人狼ゲームに、宇宙船を舞台にしたSF設定を組み合わせた作品)『グノーシア』を原作とする、2.5次元舞台である。

最大の特徴は、物語の中核をなす会議パートが、台本のない完全アドリブ(即興演技)で進行するという点にある。

公演は2026年8月21日から9月6日まで、全21ステージが組まれている。

本記事では、この異例な演劇形式がなぜ挑戦的なのかを、具体的な数字とともに掘り下げていく。

『グノーシア』とは何なのか

原作の『グノーシア』は、ゲーム制作サークル・プチデポットが開発したインディーゲームだ。

2019年6月20日にPlayStation Vitaで発売され、その後Nintendo SwitchやSteamなど複数のプラットフォームに展開された。

ゲームシステムは、複数人で正体を隠した”人狼”を議論と多数決で探し出す人狼ゲーム(会話を通じて嘘つきを見破る推理ゲーム)を、1人用にアレンジしたものだ。

プレイヤーは、星間航行船に乗り込んだ乗員となり、人間を模して紛れ込む謎の存在”グノーシア”を、会議と投票によって突き止めていく。

物語はループ構造になっており、同じ航海を何度も繰り返しながら、キャラクターたちとの関係や謎の真相を少しずつ解き明かしていく仕組みだ。

この完成度の高さが評価され、「ファミ通・電撃ゲームアワード2019」でベストインディー賞を受賞している。

その後も展開は止まらず、2022年1月23日にはSteam版が配信され、2023年12月14日にはPS5・PS4・Xbox版も登場した。

2026年3月16日にはスマートフォン版(iOS/iPadOS/Android)も配信され、発売から7年近く経ってなお、対応プラットフォームを広げ続けている息の長い作品だ。

そして2025年10月から2026年3月にかけて、TOKYO MXほかでTVアニメ版が放送された。

アニメは全21話で、原作にはいないオリジナルキャラクター「ユーリ」を主人公に据え、脚本を花田十輝氏が手がけている。

舞台化にあたって導入された”人狼TLPT”というシステム

今回の舞台化で目を引くのが、”人狼 ザ・ライブプレイングシアター(人狼TLPT)”というシステムの導入だ。

これは、演劇制作会社オラクルナイツが2012年から手がけてきた舞台シリーズで、出演者がアドリブだけで人狼ゲームを演じ切るという、独自の上演形式である。

通常の演劇はセリフや展開があらかじめ脚本として用意されているが、人狼TLPTの会議パートには台本が存在しない。

役者は開演直前に配られるカードによって、自分がその回でどの役割を演じるのかを初めて知らされる。

そこから先は、役者自身が人狼ゲームのルールに従って推理しながら、即興でセリフと演技を組み立てていくことになる。

今回の『グノーシア』版でも、脚本を池永英介氏、演出を松崎史也氏が担当しつつ、会議パートの構成には人狼TLPTのノウハウを持つオラクルナイツが制作協力として参加した。

さらに、原作ゲームを手がけたプチデポットの川勝徹氏と、アニプレックスの木村吉隆氏が監修協力についており、原作の世界観や設定との整合性を保つ役割を担っている。

フェーズごとに変わる会議の規模

本作がユニークなのは、公演期間中に会議の規模と難易度が段階的に変化していく点だ。

公演は3つのフェーズに分けられており、それぞれで会議参加人数が異なる。

フェーズ1(8月21日〜23日):1つのステージ内で5人・7人・9人による会議が計3回実施

フェーズ2(8月25日〜28日):13人による会議に規模が拡大(残り2名は解説役)

フェーズ3(8月29日〜9月6日):15人全員が参加する会議を実施

小規模な会議から少しずつ人数を増やしていくことで、観客とキャストの双方がルールに慣れていく構成になっているとみられる。

以下の表に、フェーズごとの日程と人数構成をまとめた。

フェーズ 日程 会議人数 特徴
フェーズ1 8月21日〜23日 5人→7人→9人(1ステージで計3回) 段階的に人数が増える導入編
フェーズ2 8月25日〜28日 13人 残り2名が解説役に回る
フェーズ3 8月29日〜9月6日 15人 キャスト全員参加の最終形態

このように、公演の後半に進むほど会議の参加人数が増え、推理の難易度と情報の錯綜が跳ね上がっていく設計になっている。

1人の役者が把握しなければならない情報量も、フェーズが進むごとに増えていくはずで、キャストにとっては長丁場になるほど負荷の大きい仕事になるといえる。

なぜ”全編アドリブ”は演劇として異例なのか

実際に本作に関する報道状況を確認すると、電ファミニコゲーマーやファミ通、アニプレックス公式、ステージナタリーといった媒体が、公演概要や配信情報を伝える記事を掲載している。

初日の無料配信はX(旧Twitter)で日本国内のトレンド入りを果たすなど反響を呼んだが、本記事執筆時点では、“なぜこの全編アドリブという形式が演劇的・ゲーム的に見て挑戦的な試みなのか”を掘り下げて論じた記事はまだ少ない状況にある。

一般的な2.5次元舞台やアニメ原作の舞台化は、原作のセリフやシーンをできる限り忠実に再現することが重視される傾向にある。

そのため、公演ごとに芝居の中身が大きく変わることは、通常であればほとんどない。

ところが『グノーシア ザ・ライブプレイングシアター』では、会議パートに関して”毎ステージ異なる結末を迎える”ことが、企画の前提として設計されている。

これは、演劇にとってはかなり大きな挑戦だと言える。

なぜなら、通常の舞台では演出家や脚本家が積み上げてきた”最適な芝居”を、毎公演再現性高く届けることが目標になるからだ。

しかし本作では、その再現性をあえて放棄し、代わりに”その場限りの一回性”を売りにしている。

これは、ゲーム原作である『グノーシア』の魅力そのものと、実はうまく重なる発想だとも思う。

原作ゲームも、ループするたびに会話の流れや疑心暗鬼の展開が変わり、プレイヤーごとに異なる物語体験を生み出すことが大きな魅力だった。

その”毎回違う結末”というゲーム的な体験を、舞台という一回性の高いメディアに落とし込んだ企画だと捉えると、単なる目新しさ狙いではなく、原作の本質を舞台表現に翻訳しようとした試みだと評価できる。

また、キャストにとっても大きな挑戦だといえる。

通常の舞台であれば、稽古を重ねて役を作り込み、本番では作り込んだ役を再現することに集中できる。

しかし本作の会議パートでは、稽古で固めた演技をそのまま再現することができない。

カードで配られる役割ごとに、原作キャラクターとしての性格や口調を保ちながら、人狼ゲームのルールに沿った推理と駆け引きを、その場でゼロから組み立てる必要がある。

台本があれば演出家が事前に破綻を防げるが、即興の会話劇では、その場で矛盾のない推理劇を成立させ続けなければならない。

初日公演(8月21日18時30分開演)がアニプレックス公式YouTubeチャンネルで全編無料ライブ配信され、大きな注目を集めたことからも、この試みへの関心の高さがうかがえる。

チケットと配信の仕組み

劇場でのチケットは、いずれも税込で複数の席種が用意されている。

2階VIP席:35,000円(スマホでの全編撮影可・配役事前公開などの特典付き)

SS席:15,000円(前方3列・非売品グッズ付き)

S席:8,000円

配信については、初日公演のみ無料で、8月22日以降の公演はConfetti Streaming Theaterを通じた有料配信となる。

1公演:3,300円

5公演セット:12,500円

全20公演セット:45,000円

いずれもリアルタイムの副音声コメンタリー付きで、配信のアーカイブは配信終了後10月6日23時59分まで視聴可能とされている。

毎ステージ結末が変わるということは、同じ演目を何度も見に行く価値が生まれるということでもある。

実際、配信チケットには5公演セットや全20公演セットといった複数公演をまとめて視聴できるプランが用意されており、1回だけでなく複数回見比べてほしいという制作側の意図がうかがえる。

劇場に足を運べないファンでも、複数のカメラを切り替えるスイッチング配信によって、会議の緊迫したやり取りを楽しめる設計になっている。

知っておきたい豆知識

人狼TLPTは、今回が初めての試みではない。

主催のオラクルナイツは、2012年の旗揚げ以来、年に数回のペースでオリジナル人狼ゲームを題材にした公演を重ねてきた実績がある。

今回の『グノーシア』版では、ゲームマスターを宮下奈緒氏、人狼TLPTの構成を属結司氏が担当しており、長年蓄積されたノウハウがそのまま持ち込まれている。

ユーリ役:設楽銀河さん

セツ役:生田輝さん

その他14キャラクターについては、それぞれ2名によるWキャスト体制がとられている。

Wキャストによって組み合わせが変わることも、”毎回異なる結末”をさらに広げる要因になっている。

まとめ

『グノーシア ザ・ライブプレイングシアター』は、原作ゲームの根幹である”会話から相手の嘘を見抜く緊張感”を、台本なしのアドリブという形でそのまま舞台上に再現した企画だ。

フェーズごとに5人から15人まで会議の規模が拡大していく構成や、開演直前まで配役がわからない仕組みは、演劇としてもゲームとしても異例の挑戦だと言える。

公演は9月6日まで、飛行船シアターおよび配信で楽しむことができる。

まだ観客の反応を深く分析した記事は少ない段階のため、実際に観劇したファンの生の感想が、今後さらに集まっていくことに注目したい。

Wooder

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA


コメントする