日本初開催「アジアパラ競技大会」中継はわずか1時間強 中京テレビ独占の裏にある放送事情
2026年10月18日、愛知・名古屋で「第5回アジアパラ競技大会」が開幕した。
日本での開催は今回が史上初で、44の国・地域から約2700人の選手が集まっている。
実施される競技は18競技にのぼり、10月24日までの7日間にわたって熱戦が繰り広げられる予定だ。
ところが、開幕直後からYahoo!知恵袋やSNSには「テレビでほとんど中継を見ない」「どこで見られるのか分からない」といった声が相次いで投稿されている。
歴史的な初開催であるにもかかわらず、なぜ盛り上がりが伝わってこないのか。
その背景には、放送規模の落差という、あまり知られていない事情がある。
アジア最大のパラスポーツ大会が名古屋にやってきた理由
アジアパラ競技大会は、国際パラリンピック委員会(IPC)の地域組織である「アジアパラリンピック委員会(APC)」が主催する、いわばアジア版パラリンピックとも言える総合大会だ。
2010年の広州(中国)大会を第1回として、仁川(韓国)、ジャカルタ(インドネシア)、杭州(中国)と続き、2026年の愛知・名古屋大会は第5回にあたる。
メイン会場は名古屋市瑞穂公園陸上競技場で、愛知国際アリーナを含めた合計19の会場が使われている。
今大会では、過去大会で実施されていたチェス、囲碁、カヌー、ローンボウルズ、ローイングの5競技が姿を消し、より中核的なパラスポーツに競技が絞られた形になった。
実は競技そのものは開会式より前からスタートしている。
車いすバスケットボールは10月16日に、視覚障害のある選手が鈴の入ったボールで競うゴールボールと、カーリングに似た球技であるボッチャは10月17日にすでに試合が始まっていた。
開会式では、2024年のパリ・パラリンピックで金メダルを獲得した車いすラグビーの橋本勝也選手と、陸上の中川もえ選手が日本選手団の旗手を務めた。
なお、この大会は同じ愛知・名古屋で9月19日から10月4日まで開催されていた「アジア競技大会」の直後に行われる、いわば“もう一つの本大会”でもある。
同じ地域で、同じ年に、同じ規模感の国際大会が2つ開かれるという意味でも、2026年は特別な年だったと言える。
地上波中継は1日わずか1時間強 中京テレビ独占の実態
まず押さえておきたいのは、アジアパラ競技大会の地上波生中継は中京テレビ(日本テレビ系列)が独占している、という点だ。
しかも、放送対象となるのは愛知・岐阜・三重の3県のみで、それ以外の地域では地上波で生中継を見ることができない。
発表されている番組編成を見ると、その規模の小ささがよくわかる。
▶ 10月18日(日) 開会式中継 18時から
▶ 10月19日(月)〜22日(木) 生放送特別番組 10時25分〜11時22分(57分間)
▶ 10月23日(金) 生放送特別番組 10時25分〜11時30分(65分間)
▶ 10月24日(土) 「あすリートHOLIDAY」拡大版 9時24分〜11時25分(121分間)、同日18時から閉会式中継
このほか、平日の夕方ニュース番組「キャッチ!」の中でも大会の様子が随時紹介されるが、これはあくまでニュースのひとコーナーに過ぎない。
全国向けの配信としてはTVerとLocipo(ロキポ)が案内されているが、配信される番組や時間はこの記事の執筆時点で未定のままだ。
つまり、日本で初めて開かれる記念大会でありながら、全国のほとんどの視聴者にとっては、リアルタイムで競技を追いかける手段がほぼ存在しないというのが実情なのである。
唯一の救いは、NHKが大会の意義そのものを取り上げる解説記事を出していることだろう。
同局の解説委員が、日本にルーツを持つ大会としての意味を考える記事を公開しており、少なくとも報道としての関心は向けられている。
しかし、それはあくまで解説記事であり、競技そのものを映像で追える生中継とは別物だ。
2週間前の「本大会」との落差があまりに大きい
この放送規模の小ささが際立つのは、直前に行われた「アジア競技大会」との比較だ。
9月19日から10月4日まで同じ愛知・名古屋で開催された本大会では、TBS系列が「TEAM JAPANオフィシャルブロードキャスター」としてオリンピック委員会と契約を結び、TBSスポーツ中継史上最大規模の放送枠を確保したと報じられている。
日本でのアジア競技大会開催は、1994年の広島大会以来32年ぶりという節目でもあり、全国ネットのゴールデンタイムで大型中継が組まれた。
一方のアジアパラ競技大会は、同じ年、同じ地域で行われる節目の大会であるにもかかわらず、地上波は地方局1局、放送時間も平日1時間程度にとどまっている。
同じ競技場を使い、同じボランティアスタッフの一部が運営に関わっているはずの2つの大会で、なぜここまで扱いが変わってしまうのか。
下記の表に、両大会の規模感をまとめた。
| 項目 | アジア競技大会(本大会) | アジアパラ競技大会 |
| 開催期間 | 9月19日〜10月4日 | 10月18日〜24日 |
| 地上波放送 | TBS系列・全国ネット | 中京テレビのみ(愛知・岐阜・三重) |
| 放送規模 | TBS史上最大規模 | 平日1日あたり約1時間 |
| 参加国・地域 | 45前後 | 44 |
| 選手数 | 非公表(大規模) | 約2700人 |
| 日本開催の節目 | 32年ぶり | 史上初 |
なぜ格差が生まれるのか 放映権とスポンサー収入の構造
こうした落差が生まれる背景には、大会運営の資金構造そのものが関係していると筆者は考える。
大会組織委員会の資料では、運営費の財源の一つに放送権収入が明記されている。
つまり、放送局にとって中継は「どれだけ視聴率やスポンサー収入が見込めるか」という商業的な計算の上に乗っている部分が大きい。
パラスポーツはオリンピック・パラリンピックのような大舞台であれば大きな注目を集めるが、アジア地域の多競技大会という単位では、まだ「視聴率が見込みにくい」と判断されやすいのが現実だろう。
本大会であるアジア競技大会には32年ぶりの日本開催という大きな話題性があり、スポンサーも「全国ネットで露出できる」という投資判断がしやすかったと考えられる。
それに対し、アジアパラ競技大会は競技としての認知度がまだ発展途上にあり、放送局側が大規模な制作費をかけにくいという事情があるのだろう。
実際、アジアパラリンピック委員会(APC)は、アジア太平洋放送連合(ABU)と提携し、域内でのパラスポーツ中継を充実させる取り組みを進めている。
国際的な競技団体の側も、この放送量の不足という課題を認識し、改善を図ろうとしている段階にあるということだ。
裏を返せば、今回のような地方局1局・1時間程度の中継は、まだ過渡期の姿だと見ることもできる。
次回以降の大会では、今回の反省を踏まえて配信や放送の枠が広がっていくことを期待したい。
パラスポーツ人気は高まっているからこそ、もったいない機会損失
筆者が特にもったいないと感じるのは、日本国内でのパラスポーツへの関心が、決して低くはないタイミングでこの落差が生じている点だ。
開会式で旗手を務めた橋本勝也選手は、2024年のパリ・パラリンピックで金メダルを獲得した実力者であり、パリ大会ではNHKをはじめ地上波各局が連日大きく中継を行った。
パリ・パラリンピックをきっかけに、車いすラグビーや陸上といった競技の知名度は、以前と比べて格段に上がっているはずだ。
そうした機運がある中で、日本初開催という節目の大会が、地方局の限られた枠でしか見られないというのは、せっかく育ってきた関心の芽を広げるチャンスを逃していると言わざるを得ない。
大会で実施される18競技には、車いすバスケットボールや車いすラグビーのほか、先述のゴールボールやボッチャも含まれている。
これらの競技は実際に見ると分かりやすく、初めて観戦する人でも楽しめる要素が多い。
それだけに、中継が少ないことで「存在自体を知らないまま大会が終わってしまう」人が多く出てしまうのは、やはり残念なことだと感じる。
さらに言えば、今大会の一部競技は2028年ロサンゼルス・パラリンピックの予選としての位置づけも持っている。
つまり、ここでの結果が2年後の世界大会への出場権に直結する選手もいるということであり、単なる「アジアの地域大会」以上の重みを持つ戦いが各会場で行われているのだ。
そうした選手たちの挑戦が、ほとんど中継されずに終わってしまうのは、スポーツファンとしても惜しい話だと言わざるを得ない。
補足 配信や結果はどこで確認できるのか
地上波中継が限られている分、全国の視聴者が大会の様子を追うには配信や公式発表の活用が欠かせない。
TVerやLocipoでの配信が予定されているほか、日本パラスポーツ協会や大会組織委員会の公式サイトでは、競技日程やメダル結果が随時更新されている。
参考までに、前回2023年の杭州大会では、開催国である中国が214個もの金メダルを獲得しており、今回の愛知・名古屋大会でも各国のメダル争いが注目点の一つになりそうだ。
中京テレビの特設サイトでは放送予定が随時更新されるとされており、放送時間が今後変更される可能性もある点には留意したい。
大会は10月24日まで続くため、気になる競技があれば公式サイトのスケジュールを確認してみるとよいだろう。
まとめ
日本で初めて開かれる「アジアパラ競技大会」は、44の国・地域から約2700人の選手が参加する大規模な国際大会だ。
しかし、地上波中継は中京テレビによる1日1時間前後に限られ、2週間前に行われた「本大会」との放送規模の差は非常に大きい。
その背景には放映権収入をめぐる商業的な構造があり、国際団体もようやく改善に動き始めた段階にある。
パリ・パラリンピックで高まったパラスポーツへの関心を考えると、今大会は注目を広げる絶好の機会だったはずだ。
大会は10月24日まで続く。
配信や公式サイトをのぞいてみると、意外な発見があるかもしれない。