モスバーガーが銀座に仕掛ける“二毛作”戦略 「MOSH Burger&Bar」は昼980円バーガー、夜1,680円の“背徳”バーガーに変身

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東京・銀座の街角に、これまでにないハンバーガー店が現れた。株式会社モスフードサービスが2026年7月1日、新業態「MOSH Burger&Bar(モッシュ バーガーアンドバー)」を東京都中央区銀座8丁目にオープンしたのだ。

昼は本格的なチーズバーガー、夜はお酒に合うバル(スペイン語で「大衆酒場」を意味する飲食店の一種)料理へと表情を変える、いわば”二毛作(にもうさく、本来は同じ耕地で年に二回異なる作物を栽培する農業用語)”スタイルの店舗である。47.4坪・75席という都市型のコンパクトな空間に、モスバーガーが練り上げてきた新しい戦略が詰め込まれている。

モスバーガーというブランドと新業態の背景

モスバーガーは1972年創業、株式会社モスフードサービスが展開する国内大手のハンバーガーチェーンだ。注文を受けてから調理を始める「アフターオーダー(受注後調理)」方式や、野菜を多く使った健康志向のメニューで知られ、全国に加盟店を含め多数の店舗を構える。

今回の主役である「MOSH」というサブブランドは、実は今回が初登場ではない。新型コロナウイルス流行下の2020年、東京・広尾にテイクアウト需要へ応えるシンプルなチーズバーガー専門店として産声を上げたのが始まりとされる。以来、都心部での小型フォーマット展開を模索する実験の場として位置づけられてきた経緯があり、今回の銀座出店は、その蓄積を踏まえた大規模なリブランディングと言える。

つまり「MOSH Burger&Bar」は思いつきの新業態ではなく、数年越しの試行錯誤の先にある集大成なのだ。この文脈を押さえておくと、銀座という一等地への出店の意味がより鮮明に見えてくる。

昼は980円、夜は1,680円 メニューが変わる二枚看板

この店舗最大の特徴は、営業時間帯によってメニューがまるごと入れ替わる点にある。ランチタイム(10:00〜17:00)は、全8種類のハンバーガーを揃えるバーガーショップとして営業する。

看板商品は、2種類のチーズを使った「MOSHチーズバーガー」(980円)。モスバーガーがこだわり抜いたミートソースをアレンジした、ワンランク上の「MOSHクラシックバーガー」(1,280円)も用意され、税込価格ながら一般的なファストフードのバーガーよりは明らかに高い価格帯に設定されている。

一方、ディナータイム(17:00〜クローズ)になると、店の顔つきは一変する。目玉は「夜の背徳チーズバーガー」(1,680円)だ。ハンバーガーからチーズソースがこぼれ落ちるほどのボリュームで、名前の通り”背徳感”を前面に押し出した一皿となっている。

さらに、直径わずか5cmという一口サイズのミニバーガー「スライダー」も夜の定番だ。2個セットで980円というこの商品は、片手でつまみながらお酒を楽しむバルの利用シーンを強く意識した設計になっている。ドリンクには「MOSHレモネード」や「MOSHプロテインスムージー」(各800円)といったソフトドリンクに加え、アルコール類も取り揃える。

バーガー以外のアラカルト(一品ごとに注文できる料理)にも力が入っている。シーザーサラダやトリュフの香りを効かせたフライドポテト、生ハムを使ったプレートなど、お酒のつまみとして成立する品揃えが並ぶという。ハンバーガー専門店の枠を飛び出し、小皿料理でお酒をじっくり楽しめる構成にしている点は、通常のモスバーガー店舗とは一線を画す部分だ。

昼と夜、それぞれの主力商品の価格を比較すると、次のようになる。

時間帯商品名価格(税込)
ランチ(10:00〜17:00)MOSHチーズバーガー980円
ランチ(10:00〜17:00)MOSHクラシックバーガー1,280円
ディナー(17:00〜)スライダー(2個セット)980円
ディナー(17:00〜)夜の背徳チーズバーガー1,680円

こうして並べてみると、昼と夜で価格帯そのものはさほど変わらないことが分かる。むしろディナーの主力商品が1,680円という、ランチの最高値(1,280円)をも上回る設定になっている点は興味深い。夜の来店客には、単なる食事ではなく”体験”としての価値に対価を払ってもらう狙いがあると読み取れる。

なぜ銀座なのか 立地とターゲット層のミスマッチを埋める発想

出店場所は、東京都中央区銀座8-7「銀座ナイン2号館」1階。JR・東京メトロ銀座線「新橋」駅から徒歩3分という好立地だ。

運営元は、この立地を選んだ理由について「オフィスワーカーや買い物客、旅行者など、多様な人々が行き交う銀座の幅広いニーズに対応する」ためと説明している。銀座という街は、昼はオフィス街・商業地として、夜は接待や会食、飲み会の街としての顔を併せ持つ、日本でも珍しいエリアだ。

この二面性こそが「MOSH Burger&Bar」というコンセプトと噛み合っている。一つの立地・一つの内装で、まったく異なる二つの客層のニーズを同時に満たそうという発想は、決して珍しいものではないが、大手チェーンが本格的に打ち出す例はまだ多くない。

客層は三者三様 誰のための店なのか

運営側が想定する客層は、大きく分けてオフィスワーカー・買い物客・旅行者の3タイプだという。銀座という街には、この3種類の人の流れが日常的に交錯している。

  • オフィスワーカー:平日ランチの需要と、仕事帰りの「0次会」需要の両方を担う中心的な客層
  • 買い物客:銀座8丁目周辺の百貨店や商業施設を回る合間に立ち寄る層
  • 旅行者:新橋・銀座エリアを訪れるインバウンドを含む観光客

同じ店舗でも、平日の昼と週末の夜とでは主役となる客層が入れ替わる可能性が高い。メニューだけでなく、客層の重心そのものを時間帯ごとに切り替える設計だと捉えると、この新業態の狙いがより立体的に見えてくる。

昼夜二毛作という業態の戦略性をどう見るか

注目したいのは、この「二毛作」という業態設計そのものが持つ経営上の合理性だ。都心の一等地、とりわけ銀座のような場所では、坪単価の高い家賃が出店の最大の障壁になる。

通常、飲食店は昼と夜のどちらかに客足の”谷”ができやすい。ランチ専業の店は夜が閑散とし、逆に居酒屋は昼の稼働が薄い。同じ47.4坪・75席という箱を、メニューと業態を切り替えることで一日中フル稼働させられるなら、家賃負担を分散し、坪効率を大きく高められる計算になる。

実際、夜のメニュー設計では、仕事帰りに軽く一杯だけ寄る「0次会」需要と、食事を終えた後にもう少し語らいたい「2次会」需要の両方を取り込む狙いがあるとされる。この二つの需要は来店時間帯も客単価も異なるため、メニュー構成を昼夜で作り分ける必要があったのだろう。

もっとも、二毛作型の業態には運営上のハードルも小さくない。昼と夜で仕込みやオペレーションを切り替える必要があり、現場スタッフの負荷は単一業態の店舗より確実に高くなる。この挑戦がうまく回るかどうかは、今後の稼働率や客単価のデータが物語ることになるはずだ。

また、モスバーガーというブランドにとっても、この出店は象徴的な意味を持つ。長年「ファストフードでありながら手作り感を大切にする」というポジションを守ってきた同社が、あえて1,680円という単価のバーガーを夜メニューの主力に据えたことは、価格帯そのものを引き上げる挑戦と言えるだろう。

見方を変えれば、これはブランドの実験場としての意味合いも強い。全国チェーンとして画一的な商品・価格で展開してきたモスバーガーが、銀座という特殊な一等地に限っては大胆に単価を引き上げ、酒類まで提供する。この一店舗の成否を見極めたうえで、他の都市部への横展開に踏み切るかどうかを判断する布石なのではないか、と考えるのが自然だろう。

仮にこの実験が成功すれば、「ファストフード大手が高付加価値な都市型バル業態に参入する」という潮流が、他チェーンにも波及していく可能性がある。逆に稼働率が伸び悩めば、二毛作という業態自体の難しさを裏付ける事例として語られることになるだろう。いずれにせよ、銀座の一等地での挑戦は業界内から注視されるはずだ。

ブランド名に込められた「3S」という開発思想

「MOSH」という名前にも仕掛けがある。「美味しくて小躍りしたくなる」感覚に加え、「MOS+H」でホスピタリティ(おもてなし)・ハッピー・ヘルシーという三つの前向きな価値観を重ねているという。

商品開発の背景には「Small・Simple・Specialty」という、いわゆる”3S”の考え方があるとされる。品数を絞り込み、一つひとつの完成度を高めるという方針は、8種類という比較的コンパクトなランチメニューの構成にも表れている。

運営側は今後、音楽イベントやワインの試飲会といった”コト体験”を通じて、銀座発の新しいファンコミュニティを育てていく考えも示している。単なる新店舗オープンにとどまらず、地域に根差したコミュニティハブを目指す姿勢がうかがえる。

こうしたイベント展開まで見据えていることからも、この店舗が単発の話題作りではなく、中長期でファンを育てるための”拠点”として位置づけられていることが分かる。バーガーショップという枠を超え、地域コミュニティに関わる存在を目指す発想は、飲食店経営の一つの潮流とも重なる。

補足情報 モスバーガーの店舗多様化のいま

モスバーガーは近年、通常のテイクアウト中心の店舗以外にも、フルサービス型やカフェ併設型など多様な店舗フォーマットの実験を続けてきた。「MOSH」ブランドも、2020年に広尾で誕生したテイクアウト専門のチーズバーガー店を出発点に、都心での小型フォーマット展開を重ねてきた系譜にある。

ちなみに「二毛作」はもともと農業用語で、同じ田畑で米と麦など異なる作物を年に2回栽培する農法を指す。飲食業界でも一つの店舗を昼と夜で全く違う顔に切り替える手法を指して使われることがあり、家賃負担の重い都心立地ならではの工夫として近年注目を集めている。同じ厨房・同じホールを使い回しながら、看板もメニューも別物に見せるという運営ノウハウは、家賃コストの高い都心店舗ほど重宝される考え方だといえるだろう。

まとめ

銀座8丁目に誕生した「MOSH Burger&Bar」は、47.4坪・75席という都市型店舗を舞台に、昼は980円からのバーガー、夜は1,680円の”背徳”バーガーへと姿を変える、モスバーガーにとって挑戦的な新業態だ。

一つの空間を二つの顔で使い分ける「二毛作」の発想は、都心の高い家賃という制約を逆手に取った経営判断とも読める。この試みが軌道に乗れば、今後さらに他エリアへ広がっていく可能性にも注目したい。

Wooder

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