ハードウェアウォレット「Coldcard」とは?約140億円分のビットコインが流出

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暗号資産(仮想通貨)を安全に保管するための専用機器「ハードウェアウォレット」で、あってはならない大規模流出事件が起きた。

米コインカイト(Coinkite)社が販売する人気ハードウェアウォレット「Coldcard(コールドカード)」のファームウェアに存在した欠陥が悪用され、約1,367BTC(ビットコイン)、日本円で約140億円相当が盗まれる事件に発展した。

被害は3回の波にわたり、影響を受けたアドレスは合計4,585件にのぼる。

「オフラインで保管するから安全」というハードウェアウォレットの大前提が崩れた今回の事件について、原因と経緯を詳しく見ていく。

Coldcardとはどんな製品か

Coldcardは、カナダの企業コインカイトが開発・販売するビットコイン専用のハードウェアウォレットだ。

ハードウェアウォレットとは、暗号資産の「秘密鍵(ひみつかぎ、資産を動かすためのパスワードのようなデータ)」をインターネットに接続されない専用端末内で管理する機器のことで、オンラインの取引所に資産を置いておくよりも安全性が高いとされ、長期保有者や高額保有者を中心に広く使われてきた。

ColdcardシリーズはMk2、Mk3、Mk4、Mk5、Qという複数のモデルが展開されており、暗号資産業界では老舗かつ定番の製品として高い信頼を得てきた実績がある。

その「信頼の製品」で今回の事件が起きたことが、業界内外に大きな衝撃を与えている理由の一つだ。

事件の経緯、3波にわたる流出

今回の流出は、単発の事件ではなく3回の波に分けて発生したことが特徴だ。

第1波は2026年7月30日の午前1時10分から1時41分という、わずか41分間の間に発生した。

この第1波だけで1,196件のアドレスから約1,082.65BTCが盗み出されている。

その後、8月1日までに第2波、第3波と続けて攻撃が確認された。

特に第3波では、攻撃者が取引の形式(トランザクションフォーマット)を変化させるなど、手口を巧妙化させていたことも判明している。

最終的な被害総額は、影響を受けたアドレス数4,585件、盗まれたビットコインの総量約1,367.05BTC(日本円で約140億円相当)という、極めて大規模な事件になった。

短期間に複数回、しかも手口を変えながら攻撃が繰り返された経緯からは、攻撃者側が脆弱性の仕組みを正確に理解した上で、計画的に資産を狙っていたことがうかがえる。

時期 被害アドレス数 被害額(BTC)
第1波 7月30日 1:10〜1:41(41分間) 1,196件 約1,082.65BTC
第2・3波 7月31日〜8月1日 残り約3,389件 差分約284.4BTC
合計 7月30日〜8月1日 4,585件 約1,367.05BTC(約140億円)

原因は2021年のファームウェアに潜んでいた欠陥

今回の事件の根本原因は、Coldcardのファームウェア(機器を動かす基本ソフトウェア)に長年潜んでいた、乱数生成に関わる欠陥だった。

秘密鍵を生成する際には、第三者が予測できないランダムな数値(乱数)を作り出す必要がある。

ところが今回問題になったコードでは、「MICROPYTHON_HW_ENABLE_RNG」という設定項目が0(無効)に設定されていたにもかかわらず、暗号ライブラリ側がその値ではなく項目の有無だけをチェックしていたという不具合があった。

この結果、本来使われるべきハードウェアベースの乱数生成器ではなく、より予測されやすい代替の乱数生成器のままビルドが通ってしまっていたのだ。

この欠陥がコードに混入したのは2021年3月1日で、同年3月17日にリリースされたファームウェアv4.0.0以降のバージョンで影響を受けていたとされる。

つまり、実に4年以上もの間、この欠陥は表面化せずに存在し続けていたことになる。

セキュリティ製品において「気づかれないまま長期間存在する脆弱性」ほど恐ろしいものはない。

今回のケースはまさにその典型例であり、ハードウェアウォレットという「究極の安全策」であっても、ソフトウェアの一行の実装ミスがすべてを台無しにし得ることを示した事件だと言える。

メーカー・コインカイトの対応

製造元のコインカイトは、脆弱性の公表と同じ8月1日にセキュリティ警告を更新し、影響を受ける可能性がある全モデル(Mk2、Mk3、Mk4、Mk5、Q)を明示した。

同時に、問題を修正したパッチ済みファームウェアをリリースしている。

また、脆弱性の公表後は出荷を即座に停止し、在庫を廃棄したとも報じられている。

ただし、ここで重要な注意点がある。

コインカイトはユーザーに対し、「すでに生成済みのシード(秘密鍵のもとになるデータ)は、ファームウェアを更新しても脆弱な状態のまま変わらない」と警告している。

つまり、ファームウェアを最新版に更新するだけでは不十分で、対象期間中に生成したウォレットを使い続けているユーザーは、資産を新しい安全なウォレットへ移し替える必要があるということだ。

この「更新しただけでは解決しない」という点こそ、今回の事件の恐ろしさを物語っている。

なぜこの事件は見過ごされがちなのか

今回の事件は暗号資産業界の専門メディアでは大きく報じられているものの、一般のニュースではあまり大きく扱われていない印象がある。

その理由の一つは、被害者の多くがビットコインを長期保有する個人投資家であり、取引所のように不特定多数の一般利用者が直接影響を受けたわけではないという点にあるだろう。

しかし、被害総額約140億円という規模は、決して小さな事件ではない。

むしろ「オフライン管理だから絶対安全」という一般的な思い込みを覆す事件として、暗号資産に関心のあるすべての人が知っておくべき事案だと筆者は考える。

ハードウェアウォレットを使っているから安心、という認識のまま長期間放置していた資産が、ある日突然消えているというのは、想像するだけでも恐ろしい話だ。

今回のケースでは特に、2021年3月17日から2026年8月1日までの約5年間に生成されたシードがすべて対象になり得るという点で、影響範囲の広さも見逃せない。

日本のユーザーへの影響と取るべき対策

日本国内でも、Coldcardは長期保有派の個人投資家を中心に一定数の利用者がいるとされる製品だ。

今回のような海外発の脆弱性ニュースは、日本語では専門的な暗号資産メディアがいち早く取り上げる一方、一般紙やテレビではほとんど扱われない傾向がある。

その結果、対象製品を使っているにもかかわらず、事件の発生自体を知らないまま資産を放置してしまっている利用者が一定数いる可能性は十分に考えられる。

自分の端末のモデル(Mk2・Mk3・Mk4・Mk5・Q)と製造・購入時期を確認する

2021年3月17日以降に生成したシードを使っていないか確認する

該当する場合は資産を新しいウォレット・新しいシードに移し替える

これらはあくまで一般的な注意点であり、実際の対応にあたっては必ずコインカイトの公式アナウンスを確認してほしい。

「自分は大丈夫」と思い込まず、該当する可能性がある人はすぐにでも確認する価値がある事件だと言えるだろう。

補足:ハードウェアウォレットの乱数生成をめぐる過去の教訓

暗号資産の世界では、過去にも乱数生成の不備が原因で秘密鍵が推測され、資産が盗まれる事件がたびたび起きてきた。

乱数の質が低いと、理論上は総当たりで秘密鍵を割り出すことが可能になってしまうためだ。

こうした教訓から、業界内ではオープンソースでのコード監査や、第三者機関によるセキュリティ検証の重要性が繰り返し指摘されてきた。

今回のColdcardの一件も、こうした過去の教訓が十分に生かされきれていなかった可能性を示す事例として、今後の業界内の議論に影響を与えそうだ。

まとめ

人気ハードウェアウォレット「Coldcard」の乱数生成の欠陥により、約140億円相当のビットコインが3波にわたって盗まれた今回の事件。

原因は2021年のファームウェア更新にまでさかのぼり、実に4年以上気づかれずに存在していた欠陥だった。

メーカーはパッチを提供しているものの、既存のシードは危険なままという点が最大の注意点だ。

対象期間にColdcardを利用していた人は、公式の警告を確認し、資産の移し替えを検討する必要があるだろう。

Wooder

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