ソニーミュージックのVTuber事業「VEE」が9月30日運営終了 21人中20人が独立、5年の軌跡
声優や俳優と並び、VTuber(ブイチューバー、CGキャラクターの姿で配信活動を行う配信者のこと)は今や大手芸能プロダクションも参入する一大ビジネスとなっている。
しかしその足元では、有力事務所の撤退が相次いでいる。
2026年8月31日、音楽最大手のソニー・ミュージックエンタテインメントが、2021年7月から運営してきたVTuberプロジェクト「VEE(ヴィー)」について、9月30日をもって現行の運営体制を終了すると発表した。
所属タレント21人のうち20人は個人勢として活動を続けるが、1人は今回の節目で卒業する。
5年にわたる挑戦はなぜ幕を下ろすことになったのか、経緯と業界が抱える構造的な課題を整理する。
「史上最大規模」を掲げてスタートしたVEE
VEEは2021年7月、ソニー・ミュージックエンタテインメントが手がける「史上最大規模のバーチャルタレント育成&マネジメントプロジェクト」として始動した。
当時は50人を超えるタレントのデビューを目標に掲げ、音楽コンテンツ大手ならではの資本力と企画力を武器に、VTuber市場へ本格参入する野心的な計画として注目を集めた。
その後、実際にデビューを果たしたタレントは21人。
個性豊かなキャラクター設定に加え、楽曲リリースやグッズ展開を軸に、5年にわたって活動を続けてきた。
ファンコミュニティサービス「VEELLAGE」も並行して展開し、有料会員向けにデジタルアイテムなどを提供していた。
ゲームアプリ「Gun Girl Go」の開発も進められており、VEEは単なる配信者集団ではなく、音楽・ゲーム・グッズを横断する総合IPとして育成されるはずだった。
8月31日の発表、何が明らかになったのか
公式サイトで公開された発表文によれば、終了の理由は「現在の体制を維持しながら、持続可能な事業として運営を継続していくことは困難である」というものだった。
所属タレント21人のうち、20人は活動名やキャラクター、YouTubeチャンネル、SNSアカウントを引き継ぎ、個人勢として活動を継続する。
運営によれば、継続を希望するタレントは個人勢になるか、新たな事務所へ移籍するかを自分で選べる仕組みになっているという。
一方、雛星あいるさんは今回の運営終了に合わせて活動を終了し、9月16日21時から卒業配信を行った。
ソニー・ミュージックエンタテインメントは発表の中で、事業を十分に確立できなかった責任は所属タレントにはなく、運営側にあると明言している。
発表を受けて、みなとんさんや黒燿リラさん、月白累さんら複数のメンバーが自身の配信やSNSで感謝の言葉を伝えており、なかには新衣装や新曲のお披露目を予定しているメンバーもいる。
「配信の内容や頻度は基本的に変えない」と説明するタレントも多く、ファンの間では寂しさとともに、今後の個人活動への期待の声も広がっている。
▶ 運営終了日:2026年9月30日(水)
▶ 所属タレント21人中20人が個人勢・新事務所として活動継続
▶ 雛星あいるは9月16日21時に卒業配信を実施
▶ ファンコミュニティ「VEELLAGE」は9月30日23時59分にサービス終了、返金なし
▶ ゲームアプリ「Gun Girl Go」は開発中止
なぜ「継続困難」だったのか、拡大する市場との矛盾
興味深いのは、VEEの終了がVTuber市場そのものの縮小によるものではないという点だ。
民間調査では国内のVTuber関連市場規模は今後1260億円規模まで拡大すると見込まれており、業界全体としては右肩上がりの成長を続けている。
つまりVEEは、市場が伸びているにもかかわらず単独の事業としては立ち行かなくなったことになる。
筆者はここに、大手資本によるVTuber事業特有の構造的な難しさがあると見ている。
50人超という大規模デビューを掲げた計画は、裏を返せば個々のタレントに十分な育成リソースを配分しにくいということでもある。
3Dモデルやリギング(骨格設定)の制作、収録スタジオの維持、楽曲やMVの制作にはまとまった先行投資が必要になる一方、それを回収できるかどうかは個々のタレントの人気次第という側面が強い。
人気YouTuberや個人勢の配信者が機動的に企画を回せるのに対し、大企業が運営する事務所は稟議や権利関係の調整に時間がかかりやすく、スピード感で見劣りする場面も少なくないだろう。
加えて、グッズや音楽といった多角展開は初期投資がかさむ一方、回収には長い時間を要する。
5年という期間は、投資回収の観点からは決して短くはないはずで、それでも「持続可能」と言い切れなかったという事実は重い。
音楽事業を本業とするソニー・ミュージックエンタテインメントにとって、VTuberはあくまで新規事業の一つであり、本体の音楽・映像ビジネスほどの経営資源を優先的に振り向けにくかった可能性もあるだろう。
新規事業に対する社内評価のサイクルは、既存事業のそれよりも短くなりがちで、黒字化までの時間軸が合わなかったという見方もできる。
相次ぐVTuber事務所の“退場”、業界に何が起きているのか
VEEの運営終了は、決して孤立した出来事ではない。
東京商工リサーチによれば、VTuber関連事業者の倒産は2025年に26件発生し、集計を始めた2014年以降で過去最多を記録した。
2026年も7月までにすでに12件の倒産が発生しており、高止まりが続いている。
個別の事例を見ても、2025年11月5日にはVTuber事務所「Vivid V」の運営企業が、代表による会社資金の私的流用を理由に破産準備に入ったことを公表した。
2026年4月30日には2023年設立の事務所「すいすと」が解散し、同年5月29日には「らいとあっぷ!」「グロウあっぷ!」「ぷりずむあっぷ!」の3グループが、運営会社役員による資金持ち逃げ・失踪を理由に契約終了を発表している。
これらの不祥事型の解散とVEEのケースは性質が異なる。
VEEについては横領や資金持ち逃げといった不正は一切報じられておらず、あくまで事業判断としての「継続困難」だ。
とはいえ、大手・中堅を問わずVTuber事務所の運営終了が相次いでいるという事実は変わらない。
市場規模は拡大する一方で事務所の数だけが淘汰されていくという構図は、コンテンツビジネスとしてのVTuberが、まだ収益モデルとして完全には確立されていないことを物語っているのではないだろうか。
参入障壁の低さも背景の一つだろう。
個人でも比較的安価な機材とソフトウェアさえあれば配信を始められる一方、事務所としてスタジオや複数タレントのマネジメント体制を維持するには継続的なコストがかかる。
市場が伸びているからこそ新規参入も後を絶たず、結果として競争が激化し、体力のない事業者から淘汰されていくという皮肉な構造が生まれている。
「個人勢」として再出発する20人、業界の新常態
VEEに所属していた20人のタレントは、今後は事務所の後ろ盾を持たない「個人勢」として活動することになる。
過去にも、事務所の突然の解散をきっかけに個人勢へ移行し、そこから活動を軌道に乗せた例は少なくない。
あるVTuber事務所が解散した際に独立したびびどる・生稚くれあ・庭咲ぴよの3人は、当時の心境や決意をメディアで語っており、こうした独立後の活動再建は一種のロールモデルになりつつある。
個人勢はグッズ展開や楽曲制作のスケールこそ事務所所属時より小さくなるものの、意思決定のスピードや収益配分の自由度では優位に立てる面がある。
一方で、契約や税務、権利関係のトラブル対応、誹謗中傷への対策などを自分自身で担う必要があり、事務所という後ろ盾を失うリスクも無視できない。
VEEから独立する20人が今後どのようなペースでファンとの関係を再構築していくかは、大手資本によるVTuber事業の是非を占ううえでも注目される展開といえそうだ。
すでに新衣装や新曲のお披露目を予定しているメンバーがいることからも分かる通り、事務所というブランドを失っても、これまで積み上げてきたファンとの関係性そのものは失われていない。
タレント個人のブランド力こそが最大の資産であるという、配信者ビジネスの本質を改めて浮き彫りにした出来事とも言えるだろう。
大手2強と何が違ったのか
VTuber業界には、いわゆる「大手2強」と呼ばれる事務所が存在する。
カバー株式会社が運営する「ホロライブ」は新規デビューの人数を絞り込み、デビュー前から時間をかけて個々のタレントを育成する方針で知られ、その結果として登録者数30万人未満のタレントは実質ゼロという状態を実現している。
対照的に、ANYCOLOR社が運営する「にじさんじ」は2026年9月時点で国内外合わせて約200人ものライバーを抱える大量デビュー型の戦略を取っており、登録者数30万人以下のライバーも88人存在するが、人気上位陣の突出した知名度がグループ全体を牽引する構造になっている。
この2社と比べると、VEEは「50人超」という当初目標を掲げながら実際のデビューは21人にとどまり、大量デビュー型ほどの母数もなければ、厳選育成型ほどの選抜システムも確立できなかった、いわば中途半端なポジションに位置していたと言える。
大量型と厳選型、どちらの戦略でも一定の成功例が存在するだけに、その中間で明確な強みを打ち出せなかったことが、今回の運営終了の一因だった可能性は高い。
| 項目 | 数値 |
| VEE始動 | 2021年7月 |
| 当初目標タレント数 | 50人超 |
| 実際にデビューしたタレント数 | 21人 |
| 活動継続(個人勢・新事務所へ) | 20人 |
| 活動終了(卒業) | 1人(雛星あいる) |
| 運営終了発表から終了までの期間 | 1か月(8月31日発表、9月30日終了) |
| 国内VTuber関連市場規模予測 | 1260億円 |
| 2025年のVTuber関連事業者倒産件数 | 26件(過去最多) |
VEELLAGE終了とグッズ販売のスケジュール
ファンコミュニティサービス「VEELLAGE」は2026年9月30日23時59分をもってサービスを終了する。
運営は返金や補填の予定はないとしており、購入済みのデジタルアイテムは終了日までに各自でダウンロード・保存しておく必要がある。
物販グッズの販売については11月30日23時59分まで継続され、10月以降はセール販売も予定されている。
なお、開発中だったゲームアプリ「Gun Girl Go」は開発が中止となり、発売は見送られることが決まった。
ファンにとっては、推しの活動自体は継続する一方で、これまで蓄積してきたデジタル資産や関連サービスの多くが失われる点に注意が必要だ。
過去に購入したグッズやCDなどの物理商品はそのまま手元に残るが、VEELLAGE経由で購入したデジタル限定コンテンツについては、サービス終了後に再ダウンロードができなくなる可能性が高いため、早めの対応が呼びかけられている。
まとめ
ソニー・ミュージックエンタテインメントが5年間手がけたVTuberプロジェクト「VEE」は、市場拡大の波に乗り切れないまま運営終了という結末を迎えた。
所属していた21人のうち20人は個人勢または新たな事務所で活動を継続し、1人が卒業という形で節目を迎えている。
大手資本による大規模プロジェクトが必ずしも持続可能とは限らないという今回の事例は、成長市場と言われるVTuber業界が抱える課題を象徴していると言えるだろう。