エッフェル塔がストライキで閉鎖 ヒンズー教団体対応の「女性排除」に従業員が抗議
2026年9月7日、フランス・パリの象徴的な観光名所「エッフェル塔」が、ストライキのため一日中閉鎖されるという異例の事態に見舞われた。
きっかけは、ヒンドゥー教系のスピリチュアル団体「BAPS」による塔の訪問時に、女性従業員が一時的に持ち場を外され、男性従業員に置き換えられていたことが明らかになったためだ。
従業員側はこれを性別を理由にした差別だと強く抗議し、運営会社も対応の誤りを認めるコメントを発表している。
年間675万人が訪れる世界的な観光地で一体何が起きたのか、経緯と背景を詳しく見ていく。
騒動の経緯 BAPSの訪問と「女性排除」の指示
事の発端は2026年9月6日(日曜日)にさかのぼる。
ヒンドゥー教系のスピリチュアル団体「BAPS(ボチャサンワシ・アクシャル・プルショッタム・スワミナラヤン・サンスタ、インド発祥のヒンドゥー教系新宗教運動)」の関係者約100人が、私的な訪問としてエッフェル塔を訪れた。
BAPSは当時、パリ近郊のビュシー・サン=ジョルジュに新設した大型ヒンドゥー教寺院の落成式に合わせ、フランスで大規模な文化行事「パリ・マンディール・マホツァヴ(文化祭)」を開催している最中だった。
この訪問の手配にあたり、エッフェル塔の運営会社であるSETEは、BAPS側から「女性との接触を制限する」形で訪問を組むよう要請を受け、これを受け入れていたことが後に明らかになる。
具体的には、一部の女性従業員が持ち場を離れて別のエリアに退避させられ、その持ち場は男性従業員に置き換えられた。
さらに、すべての女性従業員に対して、BAPS一行が滞在する間は特定のエリアを通過・横断しないようにという業務指示が出されていたという。
この指示は口頭ではなく、事前に取り決められた運営上のルールとして現場に伝達されていたとみられ、担当したスタッフの間では違和感を覚えつつも従わざるを得なかったという声も伝えられている。
エッフェル塔は世界的に注目度の高い観光地であり、著名な団体やVIPの訪問時には通常の営業時間外に特別に施設を貸し切る形式が取られることがあるが、今回はその特別対応の内容そのものが問題視される事態となった。
従業員の抗議とストライキ、終日閉鎖という代償
この事実を知ったエッフェル塔の従業員たちは強く反発した。
労働組合を通じて出された声明では、「性別を理由に女性従業員を排除し、男性に置き換え、存在を消し去るような業務指示だった」と厳しく非難されている。
従業員側はこれを明確な性差別だと位置づけ、翌9月7日(月曜日)にストライキを決行し、エッフェル塔は終日閉鎖という異例の措置に追い込まれた。
閉鎖は翌9月8日(火曜日)の通常営業再開まで続いた。
エッフェル塔は展望階だけで年間675万人が訪れ、これは前年よりおよそ45万人多い数字だという。
無料開放されている前庭部分まで含めると、年間の来場者数はおよそ1000万人にのぼる。
それだけの集客力を持つ施設がストライキで丸一日閉まるというのは、観光収入や国際的なイメージへの影響という点でも決して小さな出来事とは言えない。
数字で見るエッフェル塔とストライキ
| 項目 | 数値 |
| エッフェル塔展望階の年間来場者数(2025年) | 675万人 |
| 前庭部分含む年間来場者数 | 約1000万人 |
| 2026年9月のストライキによる閉鎖期間 | 1日間(9月7日) |
| 2024年2月のストライキ期間(別件) | 6日間 |
| BAPS訪問団の人数 | 約100人 |
| セーヌ川パレード参加人数 | 5000人以上(41カ国) |
運営会社と政治家たちの反応
批判が広がる中、関係者や政治家からも次々にコメントが寄せられた。
それぞれの立場からの反応は次の通りだ。
▶ SETE(運営会社):「こうした条件を受け入れるべきではなかった」とし、企業理念や男女平等の原則にそぐわなかったと非を認めた
▶ BAPS(寺院側):「訪問によって傷ついたり不快な思いをした方がいれば心よりお詫びする」と謝罪した
▶ パリ市長エマニュエル・グレゴワール氏:対応は「受け入れがたい」として調査を行う考えを示した
▶ 男女平等担当相オロール・ベルジェ氏:「フランスにおいて、女性に自らの存在を消すよう求めることはあってはならない」と批判した
▶ 国民連合のマリーヌ・ルペン氏:「女性の存在が制限されることは決して受け入れられない」とコメントした
なぜ「女性排除」が見過ごされてしまったのか
今回の一件で特に注目すべきなのは、現場の突発的な判断ではなく、組織としての事前の合意のもとで女性従業員の排除が実行されていた点だ。
単発のトラブルではなく、訪問受け入れの段階から「女性との接触を制限する」という条件を運営側があらかじめ飲んでしまっていたことが、問題の根深さを物語っている。
観光施設やホテル、企業などがVIPや大口の団体客の要望に応じて特別な対応をすること自体は珍しくない。
しかし、その特別対応が従業員の性別を理由にした排除という形を取った時点で、単なる「おもてなし」の範囲を超え、明確な労働問題・人権問題になる。
フランスは男女平等を重視する国として知られ、労働法上も性別を理由にした職務上の差別は原則として禁止されている。
それにもかかわらず、著名な宗教団体による大規模な訪問という力関係の中で、こうした条件がいったんは受け入れられてしまったことは、経済的な影響力の大きい相手に対して現場が声を上げにくいという構造的な課題を浮き彫りにしたと言えるだろう。
もう一点見逃せないのは、条件を持ちかけたのがBAPS側であったとしても、それを最終的に承諾し実行に移したのはエッフェル塔側の経営判断だったという事実である。
宗教上の慣習や文化的背景への配慮と、自社の従業員の権利保護とを天秤にかけた結果、後者が軽視されてしまったという構図は、観光業や接客業に限らず、あらゆる業種で起こり得る問題として受け止める必要がある。
フランスにおけるストライキという選択肢
今回、従業員たちが取った手段が「ストライキ」だったことも見逃せないポイントだ。
フランスでは労働者のストライキ権が憲法前文で保障されており、鉄道や航空、公共サービスなど幅広い業種で、待遇改善や労働条件をめぐる争議の手段として日常的に用いられている。
エッフェル塔でも、実は今回が初めてのストライキではない。
2024年2月には、施設の老朽化に伴う修繕費用や資金繰りの方針をめぐる労使対立から6日間にわたるストライキが発生し、来場者に大きな影響を与えたことがあった。
今回のケースが従来のスト、つまり賃金や資金繰りといった経済的な争点と大きく異なるのは、争点が明確に「ジェンダー平等」という価値観の問題だった点である。
フランス国内では近年、職場におけるハラスメントや性差別に対する従業員の声が強まっており、今回のストライキもその延長線上にある動きとして捉えることができる。
従業員が経営陣の判断を正面から止められる力を持っていることを、改めて示した事例とも言えるだろう。
実際、フランスでは労働組合の交渉力が他国と比べて強く、経営側が現場の反発を無視できない土壌がある。
今回のようにわずか1日のストライキであっても、世界的な観光名所を丸ごと閉鎖に追い込み、国内外のメディアに大きく取り上げられるほどの影響力を発揮した点は、フランス社会における労働争議の存在感の大きさを改めて印象づけたと言えるだろう。
海外での報道と今後の焦点
今回の一件は、フランス国内にとどまらずCNNや欧州各国のメディアでも大きく報じられ、国際的な注目を集めた。
フランス国外の報道では「著名な観光地が宗教団体の要望を受けて女性を排除した」という構図そのものに焦点が当てられ、ジェンダー平等の先進国というフランスのイメージとのギャップが指摘される論調も目立った。
日本国内でも通信社の配信記事を通じて速報的に伝えられたが、BAPSという団体の詳しい説明や、フランスにおける労使関係・ストライキ文化の背景まで掘り下げた記事は現時点では多くないのが実情だ。
SETEは今回の問題を受け、今後の団体・VIP対応に関するガイドラインの見直しを進める方針を示しており、パリ市による調査の行方とあわせて、再発防止に向けた具体的な取り組みが焦点になる。
宗教や文化の多様性を尊重する姿勢と、職場における性別を理由にした不利益取り扱いを許さないという原則を、どう両立させていくのか。
今回のエッフェル塔の事例は、観光立国フランスにとどまらず、多様な背景を持つ来訪者や取引先を迎える機会が増えている多くの国・企業にとっても、共通して考えるべき論点を投げかけている。
補足 BAPSと新寺院、セーヌ川パレードの規模
BAPS(ボチャサンワシ・アクシャル・プルショッタム・スワミナラヤン・サンスタ)は、20世紀初頭にインドで設立されたヒンドゥー教系の新宗教運動で、世界45カ国に3850以上の拠点を持ち、信者数は100万人を超えるとされる。
今回落成した寺院はパリ近郊のビュシー・サン=ジョルジュに建設され、建設費用は数千万ユーロ規模、インドから運ばれた石材1万個を現地の職人が彫刻し、フランス人技師が組み立てるという国際色豊かなプロジェクトだった。
落成式に先立つ9月3日にはセーヌ川で船11隻による華やかなパレード「ジャル・ヤトラ」も行われ、41カ国から5000人以上が参加するなど、フランスにおけるヒンドゥー教コミュニティの存在感を示す一大イベントとなっていた。
その華やかな祝祭の裏で今回の問題が発覚したことも、事態を一層際立たせる結果となった。
まとめ
エッフェル塔のストライキは、観光名所を舞台にした一件でありながら、職場における性差別やジェンダー平等をめぐる根深い課題を浮かび上がらせた出来事だった。
運営会社が非を認め、政治家からも批判の声が相次いだことで、今後は同種の「特別対応」に対するチェック体制の強化が求められそうだ。
年間675万人が訪れる象徴的な観光地だからこそ、その運営姿勢は世界からも注目されている。
今回の一件を教訓に、経済的・宗教的な影響力の大きさにかかわらず、公平な職場環境をどう守るかという議論が、フランス国内でさらに深まっていくことになりそうだ。