ZARAのワイドパンツが「デスパンツ」に、転倒・骨折続出の裏側と法的責任論
今、海外のSNSで「death pants(デスパンツ)」というショッキングな呼び名で話題になっているアイテムがある。
正体は、スペイン発のファストファッションブランドZARAが展開するワイドパンツ「FLOWY WIDE LEG PANTS」だ。
床に届くほど長い裾と、ふわりと揺れる生地が人気を集める一方で、その裾に足を取られて転倒し、骨折などのケガを負ったという報告がTikTokを中心に相次いでいる。
CNNやThe Guardian、ワシントン・ポストといった海外の主要メディアも次々とこの現象を取り上げ、単なる「あるある系」の失敗談では済まされない社会的な話題に発展している。
この記事では、なぜこのパンツが「死のパンツ」と呼ばれるようになったのか、具体的な負傷事例や専門家の見解を交えながら、日本の読者向けにわかりやすく整理する。
騒動の発端「死のパンツ」とは何か
話題の中心にあるのは、ZARAが販売する「FLOWY WIDE LEG PANTS」というワイドパンツだ。
日本のZARA公式サイトでは「ワイドレッグフルイドパンツ」という商品名で販売されている。
ポリエステルやサテンのような、軽くてとろみ(ドレープ性)のある生地を使い、裾に向かって大きく広がるシルエットが特徴だ。
価格は米国で45.90ドル、日本では5,290円と、ZARAらしい手頃な価格設定になっている。
このパンツの裾は、ほぼ地面すれすれ、あるいは床に軽く引きずるほどの長さがある。
Y2K(2000年代)ファッションの再流行や、シンプルで上質に見える「クワイエットラグジュアリー」志向とも重なり、2026年に入ってから世界的に人気が急上昇した。
ところが人気が広がるにつれ、TikTokには「このパンツのせいで転んだ」という投稿が続々と集まり始めた。
歩いているときに反対側の足が裾に引っかかる、階段やエスカレーターの段差で裾を踏んでしまう、といった転倒の瞬間を捉えた動画が次々とシェアされたのだ。
こうした投稿には「#ZaraDeathPants」というハッシュタグが付けられるようになり、関連動画は合計で数百万回規模の再生数を記録しているとされる。
当初は「おしゃれなパンツで転んじゃった」という笑い話として消費されていたが、骨折などの重傷事例が明らかになるにつれ、次第に安全性を問う本格的な議論へと変わっていった。
相次ぐ負傷報告、被害の実態
実際にどのようなケガが報告されているのか、代表的な事例を見ていこう。
▶ カナダ・トロント在住のエリン・コスタさん(50歳前後)は、このパンツを履いて転倒し、手首を骨折したうえ、こめかみに深い傷を負い縫合が必要になった。
コスタさんはCBCニュースの取材に対し「あのパンツのせいで、もう少しで死ぬところだった」と語っている。
顔面も強く打ち、6週間もギプスを着用する生活を余儀なくされたうえ、身につけていた眼鏡とApple Watchまで転倒の衝撃で壊れてしまったという。
▶ TikTokユーザーのホリー・ギルマーさんは、転倒により膝を骨折し、車椅子に乗せられて病院を後にする様子を自ら動画で公開した。
投稿には「このZARAのパンツには警告表示が必要」というコメントが添えられていた。
▶ インフルエンサーのジェシカ・ピアースさんは、砂利道で勢いよく転倒する様子を投稿し、大きな拡散を呼んだ。
動画には「このZARAのパンツ、本当に死人が出るレベル」という趣旨のコメントが付けられている。
▶ このほかにも、肘を骨折したという報告や、妊娠7か月の女性が転倒したという投稿もあり、SNS上には打撲や擦り傷、レントゲン写真、割れたスマートフォンの画面などを添えた投稿が数多く見られる。
共通しているのは、いずれも歩行中や階段の上り下り、エスカレーターの乗り降りといった日常のなにげない動作の最中に、裾を踏んだり反対の足に絡まったりして転倒している点だ。
英タブロイド紙Metroの取材に応じたスタイリストのクレア・チェンバース氏は「裾の幅が広ければ広いほど、反対の足や靴に引っかかって巻きつきやすくなり、つまずいて転倒する可能性が高まる」と指摘している。
別のファッションデザイナーも、裾が自転車のチェーンやエスカレーターの隙間に巻き込まれるリスクに言及しており、実際に裾がエスカレーターの歯にわずかに引っかかったという報告も出ている。
なぜ「死のパンツ」は生まれたのか、筆者の見立て
ここからは筆者の見解も交えて、この現象の背景を掘り下げてみたい。
まず前提として、ワイドパンツ自体は決して目新しいアイテムではない。
パラッツォパンツのように裾の広いパンツは1960年代から存在し、これまでも繰り返し流行してきた。
それでも今回、これほど大規模な「炎上」に発展した背景には、いくつかの要因が重なっていると筆者は見ている。
1つ目は、ファストファッションゆえの価格の手頃さだ。
5,000円前後という価格は、多少「危なそう」と思っても気軽に試せてしまう水準であり、結果として着用者の母数そのものが膨大になった。
2つ目は、TikTokという拡散装置の存在だ。
転倒の瞬間はドラマチックで「バズりやすい」映像になるため、アルゴリズム的にも拡散されやすい。
1件の転倒動画が話題になれば、それを見た別のユーザーが「自分も転んだ」と便乗投稿しやすくなるという、負の連鎖が起きやすい構造がある。
3つ目は、矛盾した消費者心理だ。
興味深いことに、これだけ負傷報告が広まっても、パンツの人気そのものは衰えていないという。
SNS上では「危ないと分かっていても可愛すぎて手放せない」「歩くときは裾を軽く結んでいる」といった声が多く見られ、リスクを認識したうえであえて着用を続けるユーザーが少なくない。
これは、見た目の魅力とリスクを天秤にかけたときに、多くの人が前者を選んでいるという、ある種のファッション心理を象徴していると言えるだろう。
ZARAは訴えられるのか、専門家が語る法的責任論
これだけ負傷報告が相次げば、当然「ZARAに法的責任はないのか」という疑問が浮かぶ。
この点について、複数の海外メディアが弁護士など法律専門家に見解を聞いている。
結論から言うと、専門家の多くは「消費者がZARAを訴えて勝つのは難しい」という見方を示している。
製品が「欠陥品」と認められるのは、その製品の通常の使用方法において、消費者が合理的に期待する安全性を欠いている場合だ。
しかし、裾が異様に長く広いワイドパンツは、見た目からしてつまずきやすいことが誰の目にも明らかであり、これは法律用語で「明白なリスク(open and obvious risk)」と呼ばれる範疇に入るとされる。
明白なリスクについては、企業側の警告義務が軽減される傾向にあるため、単に「裾が長くて転んだ」というだけでは訴訟が成立しにくいというわけだ。
ただし、専門家は「絶対に責任を問えない」とまでは言い切っていない。
米国の弁護士らは、TikTok上で同様の転倒事例がこれだけ大量に、かつ継続的に報告されている状況そのものが、「予見可能な危険性(foreseeable hazard)」の証拠になりうると指摘する。
つまり、ブランド側がこれだけの被害報告を把握していながら、商品タグや店頭で何の注意喚起もしていなかったとすれば、「警告義務違反」を根拠とした訴訟の余地が生まれる可能性があるという議論だ。
実際、米フロリダ州などでは、製造上の欠陥がなくても「設計自体が不合理に危険である」と主張する訴訟類型も認められており、余分な生地がつまずきの原因になっていると主張する余地はあるとの分析も出ている。
現時点で大規模な集団訴訟が起きているという報道はないが、今後被害が拡大すれば、こうした法的な議論が現実の訴訟に発展する可能性はゼロではないだろう。
治療費の負担とZARA側の対応
今回の騒動でもう一つ見逃せないのが、治療費の高さだ。
アメリカでは公的医療保険制度が日本ほど整っていないため、救急外来を受診するだけでも高額な費用がかかる。
米メディアの報道によれば、救急外来を1回受診するだけで平均1,500〜3,000ドル(日本円で約23万〜46万円)ほどかかるとされている。
これはあくまで初診の費用であり、骨折後のギプス代やリハビリ、通院治療などを含めればさらに高額になる。
つまり、45.90ドルのパンツが、その数十倍から百倍近い医療費を招くケースが実際に起きているということになる。
この落差の大きさも、「death pants」という強烈な呼び名が定着した一因だろう。
一方、ZARAおよび親会社のインディテックス社は、CNNなど複数メディアの取材に対してコメントを出していない状態が続いている。
商品の回収やリコール、注意喚起ラベルの追加といった公式な対応も、少なくとも本記事執筆時点では確認されていない。
大手ブランドがこれだけ大規模な話題に対して沈黙を続けている状況は、それ自体がSNS上でさらなる批判や憶測を呼んでいる面もある。
価格・負傷事例の比較
ここまでの情報を整理すると、以下のようになる。
| 項目 | 米国 | 日本 |
| 商品名 | FLOWY WIDE LEG PANTS | ワイドレッグフルイドパンツ |
| 価格 | 45.90ドル | 5,290円 |
| 米救急外来の平均費用(参考) | 1,500〜3,000ドル | – |
| 報告者 | 主な負傷内容 |
| エリン・コスタさん(カナダ・トロント) | 手首骨折、こめかみ裂傷(縫合)、顔面打撲、6週間ギプス |
| ホリー・ギルマーさん | 膝骨折、車椅子で搬送 |
| ジェシカ・ピアースさん | 砂利道での転倒(拡散動画) |
| その他の報告例 | 肘骨折、妊娠7か月女性の転倒 など |
補足情報 知っておきたい豆知識
今回話題になった「FLOWY WIDE LEG PANTS」に限らず、裾の広いワイドパンツやパラッツォパンツは、もともと1930年代の映画女優らが好んで着用したことで広まった歴史あるアイテムだ。
1960〜70年代にも大きなブームがあり、今回の流行は「Y2Kファッションの再評価」と「シンプルで高見えする服を好むクワイエットラグジュアリーの流行」という2つの潮流が重なって生まれたとされる。
なお、今回の騒動を報じた記事の多くは、被害を訴える側と「大げさに騒ぎすぎ」とする側の両方の意見を紹介している。
「サイズの合わない靴で歩けば誰でも転ぶのと同じで、パンツだけが特別危険なわけではない」という懐疑的な声もSNS上には一定数存在する。
実際に購入を検討する場合は、裾上げ(お直し)をして自分の身長に合った丈にする、厚底ではなくヒールの低い靴と合わせるといった工夫でリスクを下げられるという指摘も多い。
まとめ
ZARAの「FLOWY WIDE LEG PANTS(ワイドレッグフルイドパンツ)」は、その裾の長さゆえに転倒事故が相次ぎ、海外で「death pants」と呼ばれるほどの騒動に発展した。
骨折や裂傷といった実際の負傷例が複数報告される一方、法律専門家は「オーバーサイズは明白なリスクであり、訴訟のハードルは高い」と分析している。
ZARA側からの公式コメントはまだなく、今後の対応が注目される。
日本でもすでに販売されている商品だけに、購入・着用する際は裾の長さや歩き方に十分注意してほしい。